「イノベーション横断組織」なるものが作られ、各事業部からエース級とお目付け役が集められます。月1ぐらいで集まって、当社のイノベーションについて会議が開かれますが、結局時間が過ぎてゆくだけです。
よく見る光景です。では、なぜ優秀な人が集まっているのに、イノベーションが起きないのでしょうか。
原因は予算が割り当てられていない、それから従業員が優秀で安かったからだと思います。
まず、イノベーション。社会に変革を与えるサービスや製品。これは、どのように成り立ってきたのでしょうか。
僕は、「欲求、閃き、開発、イノベーション」の順で成り立つものと考えています。
「欲求」は「こんな面倒くさいことはやめたい」「代わりにやってくれないかな」「もっと節約したい」「ガソリン代を減らしたい」など、嫌な事が無いと出てきません。
「閃き」は、欲求を具体的な形にした瞬間です。「ハイブリッドにして、ブレーキで熱にして捨てていた運動エネルギーを電気で回収しよう」。閃きは必要な装置を具体的に描く必要があります。
「開発」は、閃きを試作品にするプロセスです。「遊星歯車を使って、エンジン、モーターを組み合わせるハイブリッドシステム。制御コンピュータは新開発。既存エンジンと遜色ない体積でFF車に適した2軸出力。既存のラジエータなど極力流用するように。そして、クラッシュテストなどを経て型式認定を取得し、量産可能な状態にする」。ヒト・モノ・金を膨大に使います。
最後「イノベーション」は、製品リリースと同義です。出したものが社会を変えるほど受け入れられたら「イノベーション」になれます。イノベーションのためには、製品の特長を説明できる広告戦略、効果的な営業スクリプトと、それをマスターできるスタッフ。無理のない納車体制。開発より、さらにお金がかかります。
冒頭の会議で「イノベーション」が起きないのは、「欲求」すら無く、「今まで通り進めて、なんとか売り上げが回復する業者は無いか」ばかり考えているからです。
この20年間、いろんな業者が完成品と遜色のないデザイン案やプロトタイプを持ってきてくれて、派遣さんが面倒な作業を安価に引き受けてくれたため、イノベーションの素地になる欲求は発生してきませんでした。若者を使い倒せばよかったので、やる必要が無かったのです。
回転寿司のように、素晴らしいプロトタイプやアイディア、デザインがやってきて、良さそうなのをピックアップする作業を「企画」としてしまったため、企画部門が「仕入れ部門」に変質した会社も少なくありません。
冒頭の例では、35歳までのメンバーに予算を与え、上役が一切口出しすることなく、製品をリリースすべきでしょう。その製品の大半は当たりません。それでも開発を続ける。これが、イノベーションを起こさないと生き残れない会社が、今から為すべきことでしょう。